会社設立の想い

- 合同会社TEMBAWANG設立の想い


今から30年前、私の初めての海外は、インドネシア・カリマンタン(ボルネオ)島でした。飛行機の窓からは鬱蒼とした熱帯雨林が幾層にも重なって見え、私の心は一瞬で鷲掴みにされたのでした。それから10年ほど、毎年のように通ううちに、その森で長年暮らしてきたダヤク人たちの、森に関する智慧の豊饒さと森に対する敬意に惚れ込み、彼らと共に少しでも多く森を歩きたいとツアーを実施しました。熱帯雨林は樹種が極めて豊富で、一日歩いても同じ樹木に出会うことが少ないため、名前とその用途や特徴を聞いてもなかなか覚えられないのですが、どの樹木について質問してもすぐに答えが返ってくる姿は、まさに彼らが森と共に生きていることを示すものでした。


しかし、この30年でこの熱帯雨林の半分がなくなってしまいました。今、飛行機の窓から見えるのはやはり緑色ですが、鬱蒼とした森林ではなく、平坦なオイルパーム(アブラヤシ)のプランテーションです。あの熱帯雨林がなくなったということは、彼らの森と共に生きて来た文化もなくなってしまったということです。自分たちの森について溌溂と語る彼らはもういないのかと思うと、寂しくてたまりません。また、かつての豊かな森がなくなってしまったために近年、現地では洪水が頻発しています。プランテーションは保水力に乏しく、雨が降るとすぐに地表を流れ、下って行ってしまうのです。さらにそれを造成する過程で行う火入れや、泥炭地の水抜きはCO2やメタンガスを放出し、地球の温暖化を加速させています。

インドネシアの熱帯雨林を侵食するオイルパーム・プランテーション

インドネシアの友人から電話があったのは、5年前の夜でした。来月テンカワン・ネットワークを立ち上げるから日本からも参加して欲しいと言うのです。テンカワンボルネオ島の熱帯雨林に生育する、樹高30m、直径2mを超えて成長する樹木で、実(テンカワン・ナッツ)からは良質なバターが採れます。イリッペ・バターの名称で知られ、化粧品の原料や、チョコレートに使うカカオ・バターの代用脂として使われて来ました。そしてこの木は森林と共に生きて来たダヤク人の心の拠り所でもありました。大量結実の時にはみんなでナッツを拾い、大きな収入になります。森の神様からの贈り物です。この木が守られている集落は結束力が強く、伝統林を守ろうという意志が働いています。この木が伐採されると、伝統林の放棄やプランテーションへの転換につながり、森の民ダヤク人たちは、もはや農園や工場で働く単純労働者として生きていくしかありません。


この樹を残し、森と共に生きるダヤク人の森林と共に生きる文化を守りたい、と想う人たちによって、「テンカワン・ネットワーク」が立ち上がりました。その時、私はこのイリッペ・バターを日本のマーケットに乗せる約束をし、2018年3月、仲間と共に会社を立ち上げました。


社名のTEMBAWANG(テンバワン)は里山を意味するダヤクの言葉です。テンバワンはテンカワンの他、マンゴー、ドリアン、ランブータン、グアバ等、たくさんのフルーツや、薬用・建材用・衣服用など多様な樹木で構成されています。森の恵みを届け、人と自然をつなげ、森と人の豊かな生活を循環させる、私たちはそんなテンバワンのような会社でありたいと願っています。

そして、13種類あるテンカワン・ナッツの中でも特に油脂成分の多いショレアステノプテラ種子から採れたボルネオ島原産のイリッペ・バターを、私たちは「ボルネオ・ナッツ・バター(BNB)」と名付けました。


皆さんも、BNBを通して、共に熱帯雨林を守り、つながっていきませんか?


合同会社TEMBAWANG

代表 広若 剛

2021年12月

Langan村のテンカワン(中央:広若)